2016.09.01

魚菜処 光悦

Store Info

  • 店名魚菜処 光悦
  • 住所大阪市中央区心斎橋筋1-5-19
  • 電話番号06-6244-5711
  • AREA
  • 4
  • EAST

取材・解禁!

冒頭から謝罪します、誠に申訳ございません。今回あえてこんな書き方をします。たとえば、絶世の美人は装飾を控えます。たとえば、透明度の高いダイアモンドはサイドに装飾を必要としません。秀逸な文章は簡潔で飾りを必要としませんし、デザイン性の高いものはシンプルです。突き詰めればミニマムになっていく。見事な素を活かそうとすれば、余分なものをそぎ落とし、核たる部分のみを研ぎ澄ます。足すよりも引く、その美意識が料理にも宿るのが日本。いつか大人になったら、いやいや、大人になるために行ってみたい・・・憧れの割烹をご紹介します。

その割烹は「魚菜処 光悦」。心斎橋筋に東西に伸びる小路「心ぶら街」に暖簾を掲げます。白木の一枚板の向こうには、店主・原田氏と他の料理人たちが手を動かし、お客様と対面で掛け合う場面も。大阪が誇るカウンター文化が弾みに弾むのです。

魚菜処・・・と銘打つように、こちらの強みは四季折々の鮮魚。10年以上もの歳月を経て、双方に信頼を構築してきた卸から届くのは、全国からの海の恵み。海域、季節、漁法、漁港、あらゆる要素から「これは」と選り抜かれる一品が届きます。

たとえば、こちらの千葉・房総半島から届いた黒あわび。蒸し上げたおおぶりの肉厚に、黒檀の刃で一切り。迷いなく厚みを捉えた一片は、なんと・・・

冬瓜とともに椀へ。産卵まえの夏季に身を肥えさせた一片と、同時期に旨味を湛える冬瓜を合わせ、

静かに出汁を落とします。

仕上がったのは「黒あわび」を打ち出す椀物。冬瓜・黒あわび・青菜と出汁。これ以上の添えもんは一切必要としない、端正な一品。

まずは、お出汁をひとくち。香り昇る薫香は圧巻。ギリギリまで主張を控えて、仄かな旨味を明瞭に際立たせています。次の「ひとくち」へのベースは固まりました。では椀タネへと箸を進めましょう。

メインとなる黒あわびはズシリと来る存在感。なのに、口に含むと驚くほど柔らかなのです。加熱は「蒸し」。
身にストレスをかけない熱加減と加熱時間が、絶妙な歯触りを生んでいると思われるのですが、当の原田店主に言わせると「素材がいいからですよ~」と、軽快にニッコリとかわされてしまい(笑)。
旨味の強さやサイズ感を考えれば、素材が上質なのはもちろんですが、その強みを打ち出す技は感服×100なのです。

さらに驚くのが冬瓜です。冬瓜を口に入れて、初めてこの一品の構成jに気づくのです。
最初に一口いただいた出汁には冬瓜の旨味が輪郭になっていたようで、椀タネとの調和にひと役も二役も買っています。
味としての冬瓜、食感としての冬瓜、その間に印象を与える「黒あわび」。なんとも!ド直球でいて密度の高い緩急!

次は煮物。器に添えられるのは松茸です。それに合わすのが…

島根のクエ。こちらも産卵期前の栄養を蓄えた一片。それも希少な天然物です。天然・養殖…言葉として書けば簡単なのですが、原田店主が考えるそれはさらに厳密さを持っており、

「捲き餌」で獲られたものも「天然とは考えにくい」とポツリ。海域を泳ぎ交い、餌を狙い、卵を産む、生き物としてそのままの在り方を経た鮮魚へのこだわりを垣間見るのです。

こちらにも静かに出汁が注がれ・・

端正な煮物へと仕上がりました。

こちらも、まずはお出汁を味わいます。立ち昇るのは松茸の薫香、鮮烈なインパクト。

初秋の松茸の香りをまとった、産卵期のクエも一口。身の流れがしっかりと感じられる食感、筋肉の力強さがギュッと凝縮。
雑味の一切を廃した淡白な旨味に驚きです。透明度の高い味わいに「クエってこんな味だったっけ??」と、これまで食べたクエの記憶を巡らすのですが、いずれの記憶ともマッチしない、なぜ?どうして?

原田店主に伺っても「なんででしょうね」とニコニコ。ヒントはお出汁に浮かぶ脂にありました。小粒の気泡が僅かに漂う脂は、脂含有量がいかに低いかを物語っています。さらには・・

ポン酢に浸しても、スッと小粒の気泡が広がるのみ。昨今「脂の旨味=魚の旨味」といった売り方・買い方・味わい方、があり、
これまで私も“脂の乗ったクエ”を脂=美味いと感じながら食してきたように思うのです。でも、人の手を借りない本来のクエはこんなにも身が締まり透明度の高い旨味を秘めていたんですね。

そんな感想を伝えたところ、原田店主は「なるべく小ぶり(脂含有量が低い)なものを卸さんに入れてもらっています」とのこと。さらに気づくのは、淡白な身だからこそ魚体の香りが少ないということ。いや、ほんと無臭に近い。

だから、「香りを纏(まと)わせて、淡白なクエと相乗するもの=松茸」・・・といった構成になるのですね。この計算に余計な添加はいらないとばかりに、構成素材は最小限。熱・香り・味・食べ進み・・・すべての演算がガッチリと組まれた一品に脱帽です。

その季節だから揚がる魚体を、その持ち味を味あわせることのみに集約する。シンプルな器の中には、見えない演算を幾重にも仕掛けた、見えない仕事がギュッと凝縮されているのです。まさに自然の力を食している実感!海域に囲まれた日本人でよかったー!!!と思わずにはいられません。

と、こんなウンチクは私が勝手に書いているもので、実際の店内では原田店主は食材や調理法には寡黙な方のよう。
「頭で食べる、ではなく、感じて味わって欲しい」といった思いもあるでしょうし、選り抜いて獲られて届けられた産物を
「○○産の○○」などと安易に記号でくくることに危惧があるのかもしれません。どれも私の想像です、が、珠玉の鮮魚を求めて、
夜な夜なグルマンな常連さんが暖簾をくぐる、特別な一軒であることは間違いありません。

とはいうものの、お客様と原田店主と料理人の皆様の雰囲気はとってもフラット&ラフ。「お客様がリラックスしてもらえるのが一番なので」と話すご店主。

装飾過多が「美味しい」や「オシャレ」と捉えられがちな昨今。引き算の美しさは日本の美意識の源だと改めて思い知らされる取材でした。
かといって・・・ワタクシはツケマもネイルも厚化粧も止めませんよ。すでに産地偽装はしてるわ、賞味期限偽装はしてるわ、遺伝子組み換え希望ですし、誰かに養殖してほしいくらいだし、ツケマやネイルで添加物してないと「食べられもしない」・・・と、自身を冷静に客観視しております、はい。

  • コース 8000円~
  • ※税別価格(サービス料無し)
    ※お昼の営業は予約のみとなります。

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