何十年も愛着を・・・

日本料理のお店へ取材に行くと研ぎを重ねて小さくなった鋼の1本を大切に使われている料理人にお会いすることがあります。聞けば「修業を始めた時から使っている」とか。手になじみ、何十年も愛着を持つ自分の料理の相棒。そろそろワタクシもそんな1本と出会いたく・・・

お伺いしたのがリニューアルした大丸心斎橋店の8階「日本橋 木屋」さん。まるで美術館のような内装は知る人ぞ知る、一級建築士・萬代基介氏によるもの。

向かって左から、木曽ひのき、赤松、ヒバ、欅、山桜、栓の木材を無塗装で並べ、各材質を支えるのは鉄骨のフラットバー２本だけ。空中に浮く銘木は、商品の陳列棚というより、それ自体が約227年の日本橋 木屋さんの歴史を語るような存在感となっています。

まるで美術館…と先ほどは書きました。ですが、ここにあるのは毎日の生活に使う調理道具。継がれてきた伝統技で形を現す「用の美」。繰り返し繰り返し使いながら生活を創るための道具なのです。

圧巻でありますのが、壁一面に設えた無数の包丁。「美しい！」瞬間的にそう感じてしまう、鍛冶の手仕事がズラリ。あ、ちょっと分かりにくいですか？では引いてみましょう。

こうです。日本橋 木屋さんは1792年創業にさかのぼる打ち刃物問屋。鍛冶職人と料理の作り手との間に位置し、職人を育み、時代に応じた商品を扱い、また、日本の工芸を守ってきました。

銘木「栓」の上には、今回の大丸心斎橋店に出店するにあたり、堺の職人とともに創り上げた逸品が並びます。もちろん、岐阜は関・新潟・福井は越前など、日本全国の鍛冶職人の名品も並びます。そうそう、日本橋 木屋さんは、今回の出店が「関西初」となります！

今回は堺の職人とともに創り上げた名品をチラリとご紹介。白紙一号本霞のシリーズです。用いる安来鋼（やすきはがね）は炭素が多く含まれ、切れ味が秀逸。本霞ならではの「上研ぎ」でマットな部分と照明を受けて乱反射する「鋼」部分（刃部分）のコントラストに目を見張る！！

正面カウンターには研ぎ場も設えられ、今後、包丁研ぎのデモンストレーションなどに活用されるそうです。本日は、撮影のため庖丁研ぎの様子を見せて頂きました（山本様ありがとうございました！）。

同店の山本さんは話します。「本物の包丁は料理の味を変えます。サッと切った果物や鮮魚は、それ本来の美味を包丁によって引き出されます。毎日の食事を大切に美味しくする。それは包丁の役割。それを造る鍛冶職人の技を未来に伝えていくことが当店の役割」と。

同じように…卸がねにもご注目ください。銅板の表面にピンピンと起こされる目の鋭さや硬度は、栄養分や風味を損なわずおろすことができます。大根や生姜などの味わいを活き活きと立ち昇らせる名品。目が沈んできたら、またここへお持ちいただければ、職人のメンテナンスも可能です。

竹細工もあります。この木や竹が余分な水分を吸収し、ふっくらと柔らかく蒸し上がります。冷やごはんの温めにも、購入したお惣菜の温めにも。さらには朝食の蒸しパンの温めにまで！無限の可能性を秘める…吉野ひのきと竹と桜皮の中華セイロです。

最後は「玉子焼き鍋」です。美味しい玉子焼きを作るポイントは“熱で焼く”ことだと言われています。熱伝導が早く、また、均一である銅製のこの1点は弱火でもふっくら仕上げ。油なじみが良くなるよう真綿で錫（すず）びきをするなど、練りに練られた玉子焼き鍋。

このように日本橋 木屋さんに並ぶのは、日常の食の道具。繰り返す毎日を愛おしく大切に過ごすための調理の相棒たちです。なん十年も愛着をもって使える道具は、メンテナンスも対応相談可能。プロのスタッフ様たちが全力で相談に乗ってくれますので「家で食べるお刺身が美味しくない」なんて些細な、ほんのちょっとのお悩みから、どんどんとお伝えください。