2020.04.01

魚菜処 光悦

Store Info

  • 店名店名魚菜処 光悦
  • 住所大阪市中央区心斎橋筋1-5-19
  • 電話番号06-6244-5711

  • AREA
  • 4
  • EAST

日本の味覚は「7つ」

 

これは、どこかで読んだ知識です。フランスや中国には5つ。日本には7つある味覚の分類。甘味・塩味・酸味・旨味は想像ができますが、これに加えて…苦味・えぐ味・滋味と続くのが日本独自の味覚なのだとか。そして日本の春といえば、苦味やえぐ味。そんな生命の髄を味あわせてくれるのが…


心斎橋筋商店街にある「心ぶら街」の魚菜処 光悦さん。この場所で約16年、口の肥えた客人を天然鮮魚でもてなす、割烹なのです。画像は…(とうとう撮影の許可をいただき、若干興奮気味にお伝えしますが…)店主の原田さん。

本日はご多忙な仕込みの最中に特別にお時間をいただいての取材です。店内には本日仕入れた天然鮮魚が所狭しと並べられ、次々と仕込みの「手」を加えられていきます。

身の厚みや皮の光沢に息を呑む「太刀魚」。

こちらは天然の「クエ」。まず、天然ではお目にかかれない、希少な逸品。

そして、「オコゼ」。これら鮮魚は、原田さんが20年以上のお付き合いで深い信頼を置く、黒門の卸さんから仕入れられているそう。海域、季節、漁法、漁港、あらゆる要素から「これは」と選り抜かれた一品が届きます。

ここで…ワタクシ先ほどから「天然」「天然」と安易に乱れ打ちしておりますが、「魚が天然であること」が近年いかに希少な事なのか…。原田さんの「天然鮮魚」とは、「捲き餌」で獲られたものも「天然とは考えにくい」。海域を泳ぎ交い、餌を狙い、卵を産む、生き物としてそのままの在り方を経た鮮魚を指しているようなのです。

昨今、温暖化による海温の上昇で、天然魚の漁獲量は下がり。「四季」のあった厨房の鮮魚も少しずつ様変わりしていったと話す原田さん。だからこそ、魚菜処 光悦では、海本来の恵みを客人に届け続けるのではないかと。非常に寡黙な原田さんの言葉から、そんな信条を読み取らせていただきました。


だからゆえか、原田さんのお料理は“引き算・足し算”の緩急が巧み。例えばこちらの穴子。2.8kgの大ぶりを、出汁と山椒で炊き上げます。2.8kgといえばかなりのサイズ。身はもちろん脂も相当の量であろうかと。一般に脂含有量の多い鮮魚は出汁を弾くため、小さく揃えて炊くものかと…。それをここまで分厚い状態で炊き、仕込む。技術にも素材にも驚きの“何か”が垣間見れるワンシーンなのです。

こちらで進むお仕事は太刀魚の骨抜き。1本ずつ細やかな仕事を最速で進める手元が圧巻。身の流れや質に極力触れず、体温をも与えない動きで「この太刀魚」の持ち味を守っているかのよう。それでいて、食す客人の第一印象をなだらかにする“見えない仕事”。

泳ぐときに良く動かすことで、身の弾力を強める太刀魚の尾部分は別の仕込みに。これは日本料理の古典的な妙技。身を三つ編みにすることで食感にさらなる妙味を打ち出す技なんです。原田さんは話します。「ひも解けば、過去は新しい。理に適った技法は、いつも新しい」と。

見える仕事・見えない仕事。そして、足し算と引き算。そういった幾つもの手をかけて(&かけないで)魅せるのは、その日仕入れた天然鮮魚の持ち味。そんな魚菜処 光悦さんのお仕事が書籍になっています。(ここでは本のPRができないので)皆様!この画像をしっかりご覧ください!

さて、お待たせしました。同店がこの時期にお勧めしたいお料理の登場です。まずは「タイラギ貝」。殻長30cm以上にもなる大型種です。貝殻を器に見立てた逸品は、うっすらと真珠光沢が放たれ、自然の美しさを悠々と魅せてくれます。

そして、大ぶりに切られた貝柱。押し返すような弾力を噛みしめると、うっすらと浮かび上がる貝特有の「苦味」と後口に広がる「旨味」。その持ち味をゆっくりと引き出すために合わせるのが、生アオサと卸大根の酢仕立て。ここにはアオサの滑りと卸大根の食感も一役も二役も買う、綿密な仕掛けが秘められていました。

箸休めには白菜の花。植物性の「苦味」は清澄な印象で、貝柱の「苦味」と対峙。旨味・酸味が「生きる苦味」を際立たせ、食感にも何重ものトラップを忍ばせる、密度の高い一品。素材の選定と掛ける手をギリッギリまで精査したかのような、驚きの一皿です。

こちらも苦味がアクセントとなる逸品。「甘鯛の鱗焼」です。甘鯛が持つ皮下脂肪を熱し、鱗がパンっと立ち上がったら、遠火で身を加熱。2段階の加熱で甘鯛に複雑な表情を魅せてくれるのです。と、書くのは簡単。…脂含有量の低い天然甘鯛の皮下脂肪を炙る技は、原田さんならではなのです。

ご覧ください、このコントラスト。バリっと力強い食感の鱗と、トロケるような身質。まるで相反する持ち味を秘める1尾の甘鯛。しかも、この身の滑らかさは、魚脂の“それ”ではないんです。天然甘鯛だからこその滑らかさ。後味に脂が全く残らず、身の旨味だけで強い余韻を残す一片。

そんな後味をキュッと締めるのが、この花山葵。ピリッと爽やかな刺激と酸味、そして追ってくる「苦味・えぐ味」。端正な甘鯛の、ひと口目とふた口目の間を美しく切る、粋なインパクト。名脇役すぎる働きです。湯通しをせず、塩もみだけを施して、自然の苦みを印象付けているのです。

若ごぼうとフキは食感のアクセントに。植物の弾力を挟むことで、甘鯛の2層テクスチャーがいっそう際立つ…巧妙な仕掛けが待っていました。これも、何重にも“トラップ”を忍ばせる、重層的な一皿。

今回は、天然鮮魚の持ち味を“苦味・えぐ味”をキーに展開されたお料理。これが…次のシーズンには?その次のシーズンには?と、期待が高まる、原田さんの妙技。皆様、是非いちど足を運んでみてください。きっと、すごい体験が待っています。
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