2017.11.01

一夜一夜 別宅 寸菜太福 | 特集 201711

一夜一夜 別宅 寸菜太福

Store Info

「生きてて良かった」or「今死んでもいい」

とびきりに「美味しい」ものを食べて「生きてて良かった」と思う場合と「今死んでもいい」と思う場合があります。
その違いは何かしら。これまで味わったことのない美味を食べたときは後者。
馴染みの味が究極に美味しかったときには前者かと。
もし最後の晩餐ならば、あなたはどっちを選ぶ???
今日は、そんな伝説的なお店に関してのあれやこれやです。

それは、知る人ぞ知る、「しんぶら街」(赤丸が目印)でのこと。
宇治香園さんとCook jeansさんの間に東へのびる1本道が「しんぶら街」。

かつては呉服屋さんが軒を連ねたアーケード街は、今でも呉服屋さんはもちろん、じつはチョコチョコと美味な店舗が点在します。

そんな一軒が「一夜一夜 別宅 寸菜太福」さん。
干物と土鍋で炊いたご飯、そしてお酒のお店。重厚な門構えにドキドキ…

1枚カウンターは梻(タモ)。
磨きこまれた美しい木目に設置されるのは石造りの焼き場。

ここに設置されるのが伊勢コンロ。
備長炭を入れて、お客様の焼き場となるスペースです。

焼かれるのは全国から選り抜く「干物」。小田原、伊東、北海道に岡山・福島と網羅。金目や瀬戸内さわら、鯵、ほっけ…。
店主が20年以上の時間をかけて、信頼を構築した漁港の卸さんから仕入れています。その多くが、ご家族で経営する小さな店舗で、「手」が適える「仕事」の逸品に、店主ご自身がほれ込んでいるのです。

ここでご登場、店主・藤井様。元はフレンチシェフ。そして、外食コンサルタントでもありました。それがどうして「干物と土鍋で炊いたご飯、そしてお酒のお店」に?この謎も後々に解けていきます。

炭が赤くなった伊勢コンロには、店主ご自身が焼き加減を管理。魚種や固体の状況だけでなく、この丸い一面の炭火温度も瞬時に判断。「どれをどの場所でどのくらい加熱するか」鑑みます。

刺身でも食せるほどの「蛸」も一夜干し。干すことで内面に旨みを閉じ込め、かつ、旨みを高める。保存のためではなく、旨みを高めるための「干す」。海水と海風が生み出す味わいは、まさにその地、その風、その風土でしかなしえない、他の地では再現不可能な味わいに。

データ化もノウハウ化もできない「干す」は、周囲を海域にかこまれる日本食文化の叡智。そして、その「干し物」の旨みを完成させる「加熱」は、最も旨み高まる針の穴のような瞬間を捉えます。そんな店主の職人技も、決してデータ化もノウハウ化もできない。まさに「手」の「仕事」なのです。

例えば蛸は、その内面に旨みの隋(もう、生命の隋とも言いたいくらい・・)を充分に蓄え、口内に入れた瞬間にジュワーっと炸裂。「生」では味わえない風合いに驚き!生よりも、むしろ、干すことで生命力が高まるか、くらいの感動!

例えば、こんな珍しい逸品も。伊東の「とんび」はイカの口部分。絶妙な加減で炙って口に含むと、弾力ある食感と甘味も含む味わい。

愛知の銀杏はふくふくとした食感と旨味。口に含もうとすると「熱いよ、気をつけて」と必ず声をかけてくれる店主のお気遣いもあいまって、なかなかほほえましい味わいに。

その他、根菜やキノコ、パプリカなどの野菜も豊富です。パプリカなんて、噛んだ瞬間にジュワーっと水分を放出。そして、これが実に甘い!爆ぜるのをまってましたとばかりに仕上がるのは「炭火」の効果だそう。

そこに登場するのが…真打「小田原の金目鯛」。ジクジクジクジクと、加熱によって水分をあふれさせ、音と香りで食指を弾ませる!

「生」ではなく「干す」ことの利点として、表面が適度にプロダクトされているため…高温の炭火でもこの通り。美しい身の流れが箸でポロポロと分かれ、その断面は美しい加熱のグラデーションに。中央に向かうほど半生の焼き加減。身に負担をかけず、金目鯛自身も焼かれているのに気づかないほどの…絶妙な火加減。

北海道から届いたオスのシシャモも、小田原の金目も同様に、アスリートのような引き締まった「身」。近年の「脂旨い」傾向を、逆行する…自然の旨さ。海流に逆らい餌を得て泳ぎ回る…天然の味わいなのです。

こちらにもご注目ください。伊賀焼きの土鍋を過熱する専用のコンロは、なんと特注品。その土鍋で炊き上げるのが・・・

店主・藤井さん自ら育てる、兵庫県養父市関宮のコシヒカリ「蛇紋岩米(じゃもんがんまい)」や宮城県のヒトメボレ「小高有機米」。かれこれ10年以上、それら産地で藤井さんの農業を支えてくれる方々との「産地コミュニティ」と、

藤井さんといっしょに、その田んぼを所有する、お客様を中心とした「街コミュニティ」が、初夏の田植えから秋の収穫、そして初夏と…1年を通じて。

育てる、作る、食べるが「米」を中心につながる、そんな土鍋の中は艶々に真っ白!蓋を開けたとたん、湯気とともに薫香が昇りあがり広がっていきます。

粒をけっしてつぶさないように細心の注意をはらう手元。その動きがなんとも流暢!

力強い香り、ほどよい粘りに、甘味と旨味が交差。お米って、こんなに複雑な味わいだったのか!いつまでも咀嚼して味わい続けたい(汚い表現ですみません!)貪欲で意地汚い欲求が抑えられないのです。

奥深い旨みが本能的に直感的に、右脳を直撃。先ほどの金目なんかも乗せてさらに味わいは奥深く。とうとう「あっち側世界」に行ってしまい、このまま目が覚めなければいいのに…とすら思うほど、そんなワタクシの目を覚まさせたのが・・・

京都「美山」の有精卵。平地で走り回って育ち、九条ネギを餌とする鶏の卵。見てください、この力強さ。箸で持ち上がるんです。

それを贅沢にも、こだわりの土鍋ご飯に卵かけ。ご馳走です!

強い米に、強い卵。どちらか一方がパートナーじゃなければ成り立たないペアリング。この卵にして、この米。逆もしかり。しっかりと対峙し、一歩も退かない双方が、相乗して演算して。

そんな藤井さんが元フレンチシェフで外食コンサルタントであったことは先述の通り。味覚を重ねるフレンチから、そぎ落とすことで味を見出す「素材の料理」へ。調理も完成度も「定量化」することが前提の外食マーケの世界から、その人の「手」でしか成し得ない「仕事」へ。そんな藤井さんを慕う方々とともに米を育て、コミュニティを作っていく。

こんな人が心斎橋にいたなんて!!フレンチの頃は厨房に立ち続け、コンサルタントの頃は後方支援にまわっていた藤井さん。いま、カウンター越しに直にお客様と対話を重ね、店を越えてのコミュニティにも専心。藤井さんが作りたかったと思われる「食」の世界がチラリと垣間見られます。

2階にはお座敷席もあり、接待席や商談にも使われることが多いそう。

藤井さん自ら丹波で作る、茶碗も並び目を楽しませます。

間違いなく、藤井さんのお料理は「生きてて良かった」の味。「今死んでもいい」タイプではありません。生まれてからいままでに刷り込まれた日本人の味覚を悠々と刺激して。絶対死にたくない、明日もこれが食べたい、誰かと美味しく食べたい!と横のつながりまで生んでしまう「味」。
1月には店外で恒例の「餅つき大会」もあり、こちらも追ってリポートいたします★

  • 塩若干し~2名様分~
    3種/3000円
    5種/3500円

    兵庫県養父市関宮のコシヒカリ「蛇紋岩米(じゃもんがんまい)
    宮城県のヒトメボレ「小高有機米」
    各、釜炊き2合 1050円

    美山の卵 300円

    コース料理3000円~

  • ※価格はすべて税別
    ※11/3~11/9まで東北米農家、酒蔵へ仕入れのため定休。
    ※2018年1月は自家もち米を使った「持ちつき大会」開催予定。

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