2017.06.01

長﨑堂 | 特集 201706

長﨑堂

Store Info

  • 店名長﨑堂 心斎橋本店
  • 住所大阪市中央区心斎橋筋2-1-29
  • 電話番号06-6211-0551
  • URLhttp://www.nagasakido.com/

長﨑堂 心斎橋本店

まずは、見てください。

いまだかつて、こんなに美しい「お菓子」を私は見たことがありません。いや、一見、お菓子ということも思い当たらないほどの透明度と淡い配色。球という形がこんなにも完全なフォルムなのだと思い知るような、圧倒的な存在感。

ここは「長﨑堂 心斎橋本店」。創業1919年のカステラの老舗。2013年に改装された外観は、余白や宙にまで物語が刻み込まれるよう。抑制の効いた美は、この一面すらひとつの作品のよう。

店内はティーサロンとなっており、ここでもカステラなどがいただけます。思わず…声のトーンを落としてしまう、心地のよい静寂。本日ご案内いただくのが、この方。

株式会社 長﨑堂 取締役の荒木様。長﨑堂の3代目 荒木一郎氏と、中興期を支えた傑物。歴史を語る人、なのです。

荒木さんが1980年に創り上げ、発売し、いまも代表的な商品となっているのが、この「クリスタルボンボン」。荒木さんは言います、「絵と文字とリズムには、精神が宿る」と。

まずは「絵」。このクリスタルボンボンに描かれる、後ろ向きの少女。遥かかなたを眺める彼女はこのとき何を「観て」いたんでしょうか。この絵は、荒木さんのお嬢さんであり、いまや数々のデザイン賞を受賞する荒木志華乃氏が幼い頃に描いた一枚がもととなっているのです。

そして「文字」。大阪を代表する作家 田辺聖子さんの「苺をつぶしながら」(画像は筆者私物)に、このクリスタルボンボンおよび「長﨑堂 心斎橋本店」が描かれています。

さいごに「リズム」。クリスタルボンボンを口に含むと、あまりの華奢なテクスチャーに一瞬で圧倒されます。ちいさく、ほんとうにちいさく「クシュッ」とつぶれたと思ったら、次の瞬間には口いっぱいにリキュールがグラデーションを打つように広がる。静寂から、ポンとタイミングを打ち、サーっと波打つリズム。

ピンク色は桜桃から作られた「マラスキーノ酒」、白色はオレンジの香りをもつ「コアントロー酒」、青色は薬草アニスから作られた「アニゼット酒」の各リキュールたちは、薄い膜でまるく覆われており、口の中で緩急を描きながらスッと消えてゆく。儚くて、華奢で可憐ながら、ひとつぶひとつぶに密度の高い世界を秘めているのです。

次にご紹介するのが「虹のかけら」。

パッケージに描かれるのは「花火」。そして「虹をわって とびちった かけらです」と、わずか7行の「詩」。行間に7色のカラーが配されるような、そんな奥行きを秘める一編。

これは、先述の荒木志華乃氏のお子さんが、淀川の花火を観た際に語った感想。夜空に一瞬現れる、弧を描く花火。それを虹になぞらえて、パラパラと虹はかけらになって消えてゆく。

かけらを口に含めば、寒天が割れ、中からは飛び出るのを待っていたかのような…オレンジ、ミント、グレープ、モモ、レモンと5種の味。食感も味も、どこか無邪気な風合いを装い、童心を心地よく刺激されるのです。

1954年頃には作家 武者小路実篤氏と親交を深め、1973年には版画家 前田藤四郎氏と仕事を超えた交遊を育んだ、長﨑堂。精神が宿る「文字」や「絵」には、このような歴史的背景があったのですね。そして「リズム」は・・・

心斎橋本店の片隅に配される、アンティークのオルゴール。取締役の荒木さんが、1973年ごろに購入した一点です。例えば、12時のお昼時、3時のおやつ時、そして学校から帰る時間にも。この街に住む子供たちのために「音」を添えたい、思い入れがあるオルゴールは、長﨑堂のシンボリックな存在となっています。

古貨ペニーを入れると・・・

まわり始めるオルゴール盤。

歳月を経ても褪せない音色がゆっくりと店内を共鳴。そうすると、不思議なことに、音が「ある」ところではなく、音の「ない」ところを耳が探し始める。これはクリスタルボンボンと同じで、食感と味が「ある」ところではなく「ない」ところに、どんどんと何かが浸み渡っていくから。音の「ある」ところから「ない」ところへ、どんどんと広がっていく。それが荒木さんの言う「リズム」の正体なのかもしれません。

この街に住む子供たちのために「音」を添えたい、そんな思いを込めたオルゴール。「母親が子どもに食べさせる気持ち」を信条とする長﨑堂ならではの音色。荒木さんから、お嬢さんである荒木志華乃さんが描いた「クリスタルボンボン」に、そして荒木志華乃さんのお子さんが綴った「虹のかけら」に。代々つながっていく「絵と文字とリズム」。

そして「復元カステーラ」は、カステーラ作りの芸術家たちが、伝統の秘宝そのままに、一窯、一窯、精魂こめて焼き上げた珠玉の逸品。沃度卵と米飴の砂糖を使用し、保存料、添加物を一切使用せず、こだわりの材料で焼き上げるカステーラ。

黒船伝来の秘法そのままに、90余年培われた確かな技術で焼き上げる「復元カステーラ」は、杉の箱に収められ、南蛮絵柄和紙掛け紙と真田紐で包まれます。

密度の高い断面、立ち昇る薫香。それでは・・・とフォークを刺そうとしたら、荒木さんがニッコリ笑いながら「手でちぎって召し上がってみたら?」と。

そう、これが「復元カステーラ」を味わうにふさわしい食し方。両の手で一片を割ると…香りは一層の強みを増して、さらには、生地と生地が割かれるたびに、「プチ」「プチ」と振動が手のひらに伝わってくる。それほどの生地の密度であり、焼き上げの妙技であることを、一瞬にして体感。どれだけ言葉を尽くしても、この感覚は表現に難しい。これも「リズム」のひとつなのかもしれないのです。

ほんとうに個人的な感想で申し訳ありません(ライター失格)。食べたその瞬時に、大切にされていた幼少期を思い出してしまいました。
この追憶の味覚は、なにか安堵感や安らぎの記憶とセットになっているのです。高貴で美しい味、だけじゃない、プラスの何かが秘められて、満たされる感覚は不思議なもの。

そのように荒木さんに伝えると「ふふふ」とニッコリ。1868年に初代 荒木源四郎氏が長﨑で生を受け、2017年のいま、私が「復元カステーラ」を食している。この不思議さ。荒木さん、ありがとうございました。また、オルゴールを聴きにいきます。

  • クリスタルボンボン 1458円
    心斎橋本店、住吉店にて販売。
    製造に大変時間のかかる商品のため、店頭にもご用意のない場合がございます。
    お電話にて事前お問い合わせ下さい。

    虹のかけら 1620円
    復元カステーラ(小)1296円
    復元カステーラ(中)3240円
    復元カステーラ(大)5400円

  • ※価格はすべて税込

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