2022.12.28

第2弾<名画のナゾを解け!>
今回のターゲットは「東洲斎写楽」
推しメンのデフォルメ、その真意を問う!

週刊誌が大キライ!その理由に賛同してくれ!

大阪浮世絵美術館

何がキライって週刊誌が嫌いよ。なぜか?ワタクシの好きな推しメンたちに砲弾を浴びせるからに決まってる。もちろん、アーティストさんや芸能人さんのプライベートを暴くっていう行為にも倫理的ツッコミはあるだろうけれど、今回はそんな話じゃない。ワタクシは「推し」が好きだ。ものすごく愛している。応援もしているし、ウチワも手づくりするし、いろんな情報も追っかけてる。その「推し」の「私たちファンに魅せたいであろうカッコイイ姿」だけを愛している。ボサボサ頭にワンマイルウェアの彼なんて見たくない。それはカッコイイ彼じゃない。だから、路上でどーのこーのなんて、リアルな姿なんて見たくない。だから、週刊誌なんて大キライ。

なんで、そんなことを思い出したのか。それは大阪浮世絵美術館の企画展『写楽と珠玉の浮世絵』を取材に来たことに起因するのです。公式サイトによると…「江戸時代から明治時代当時に摺られたオリジナルの浮世絵版画を「名所絵」や「武者絵」等ジャンル別に約60点展示いたします。」とのこと。さらには!あの写楽「1794(寛政6)年5月から翌年1795(寛政7)年1月にかけての約10か月の短い期間に作品を発表、その後忽然と姿を消した謎の絵師<東洲斎写楽>」作品も展示されている・・・とのこと。謎解き大好きなワタクシとしては、取材しないわけにはいかない!

今日のご案内も、これまで当取材で何度もご登場いただいた「山本さん」です。ある時は知性と教養で、ある時はユーモアで、ある時は人情深く…その1枚を紹介する語り口はまさにインテリジェンス&ユーモア&エンターテイメント。山本さんの魅力を知りたい方は、この記事とか、この記事とかをご覧ください。
まずは、当企画展示のポイントからおさらいです。山本さん、今回も宜しくお願いいたします!

企画展『写楽と珠玉の浮世絵』は先述の通りジャンル別に約60点展示されています。

「花鳥画」や「開化絵」に「道中絵」は景観やワンシーンに唸ったりウットリしたりと目を楽しませて。「武者絵」はその力強さに思わず見入ってしまう。

中でも、今回の大注目はやはり「役者絵」や「美人画」といえるでしょう。ここを重点的にご覧になる方も多いようです。

この頃に描かれた「別嬪さん」や「男前」

例えば「大丸屋前の三美人」は、まさに現在の大丸さん。江戸三大呉服店のひとつとして、この時代(江戸時代中期)に浮世絵に登場。その際、美人の着こなしを色鮮やかに描き、浮世絵が「宣伝媒体」となっていた。つまりは、今でいうファッションポータルサイトのような役割だったってワケね。大丸前に立つ3人の女性が練り込んだコーデで堂々と。うーーーん粋ね。 小袖のレイヤードやかんざし等の小物使いも、じーーーっくりと眺めたくなる!これも原画ならではの楽しみ。

一方「摂津国梼衣の玉川」は、現在の高槻市(摂津の国)を描いています。ココは当時木綿の産地、玉川で衣を打つ女性が忙しくも活き活きと手を動かす様子。傍らにはのんきな犬たち。この働くおねーさんたちの着こなしに佇まいも、なんだか艶っぽい♡卯の花が多く咲くことで歌に詠まれたワンシーンに、「大丸屋前の三美人」とはまた違う魅力を湛えた女性たちですね。

あの、山本さん。あの、そろそろ別の切り口を鑑賞しませんか??その、まぁ、イケメンと言うかハンサムと言うか(注:同じ意味です)、そんなカンジの浮世絵の解説をお願いいたします。と、お伝えしたところ…さっそくご案内いただいたのが・・・

豊原国周(とよはらくにちか)の「阿部宗任(あべのむねとう)」シリーズ「中村芝翫(なかむらしかん)」です。江戸時代の最大の娯楽といえば…歌舞伎!!!!!でしょう。その絶大なブームの元で役者の<推し絵>=「役者絵」として浮世絵も大流行したのです。そんな歴史を物語るこの1枚。

その目的が推しの絵、ということもあり、ファンが「きゃぁーーーーーーーーー♡♡」となるような美しさやカッコよさが持ち味。実際にワタクシがこれを眺めても、 「中村芝翫(なかむらしかん)」のクールなイケメンさに、きゃいきゃいですもんね。

「奥州安達原」といえば現代も大人気の演目。 その「阿部宗任(あべのむねとう)」を演ずる「中村芝翫(なかむらしかん)」。舞台上で「にらみ」を効かせるこの勇ましさ。イケメンとはまさにこのこと。

「これは男前じゃない!!!!!!」

その一方。次に山本さんにご案内いただいた東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)で、ワタクシのテンションは一気におかしな方向へ。皆様、これも「役者絵」なんですよ????
※作品名「三世坂東彦三郎の鷺坂左内(さんせいばんどうひこさぶろうのさぎざかさない)

「山本さん、これはイケメンではありません」。〇〇は△△△だし、□□□は×××だし(注:自主規制)、先ほどの「阿部宗任(あべのむねとう)」シリーズ「中村芝翫(なかむらしかん)」のような美しさや勇ましさが感じ取れない。まるで「ただの人、ふつーの人間」じゃないですかと言うワタクシに・・・

「そう!何も美化されていない、そのままの人間。むしろ、その役者だけが持つ顔の造詣、その特徴をあえて強調もしている。この生々しさが、写楽なの!」と教えてくれる山本さん。さて、今回もその謎は解けるのか???山本さんの解説は続きます。

写楽とは、誰か?

東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)、その生没年は不詳。その本名も出生地も長きにわたって「不明」。その正体を追うようにあらゆる研究が進められてきた謎の浮世絵師。寛永6年(1794)に華々しくデビューしながら、先述の通り「役者の肖像を生々しく、さらには、その特徴をデフォルメする」技法が、カッコイイ役者絵を求める大衆には受けることなく、わずか10ケ月で浮世絵の世界から姿を消す・・・・と。

わずか、10ケ月。自分の信じた表現を大衆が理解できないことに絶望したのか、それとも、そんなことはヘッチャラで、もともとショートスパン活動計画だったのか、それとも・・・。「それは、わかっていないんです。いろいろと不明だから、想像力を掻き立てられちゃいますよね」とニッコリの山本さん。続けて「写楽が評価されたのは、100年後のヨーロッパだったんです」と教えてくれます。そして現在、シリーズ28図中、27図が東京国立博物館に収蔵され「重要文化財」となっている。

「28図しか現存していない」この事実をどうとらえるか。いかに当時に価値を見出されなかったかの現われのようにも感じます。さらに山本さんは写楽と対極にあった浮世絵師の話をしてくれます。「歌川豊国(うたがわとよくに)は人気役者をより美しくカッコよく描いた浮世絵師。大衆の望むものをしっかりと作品にしたんですね」と。そして…「マーケティングに秀でた豊国に対し、写楽はアーティストだったんじゃないでしょうか?」とも言い添えます。

商業か?芸術か?

うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。これは考え込んでしまうな。100人のうち90人を嬉しく楽しませることって相当に難しいよ。一部の理解者から評価されればいいなんて、むしろ生ぬるいでないかい?そう感じるワタクシの商業脳。いやいや、売れる成功は一時だよ、普遍を突くのであれば評価は100年後にだって必ずやってくる。そちらの方が苦難だけれど本質だね、そう感じるワタクシの芸術脳。
なぜ写楽が目前の対象を美化せず、対象の持ち味をデフォルメしてまで「その人ならではの肖像」を描いたのか?今となっては、その動機や志しも分からない。ただ、当時10ケ月で消えた天才がいたってことだけ。

深く考え込んでしまうワタクシに「ひとつ、ヒントをお伝えします」と山本さんの解説は続きます。こちらの大首絵の背景に関して。「よーーーく見てみて」と山本さんに言われて目を凝らすと…アラ不思議!!背景より目前の人物がフワッと浮き上がって見えるではありませんか。その秘密は「黒雲母摺り」という背景技法。鉱物を砕き、パウダーにして混ぜ込んで、うっすらと立体に仕上げるという<非常に><極めて>手の込んだ技法なんですって。重厚な背景に浮かび上がる「森田勘弥」は、持ち前の顔の造詣のまま、劇的に「劇」。なんだか、描かれる人物の深みが増してくる。
※作品名「八世森田勘弥の駕篭舁鴬の治郎作(はちだいめもりたかんやのかごかきうぐいすのじろさく)

「と、いうことは。写楽は写楽の解釈で役者さんを魅力的に描こうとしていた、ということですかね?」と聞いたワタクシ。「そう!」と山本さん。とうとう、今回も謎の解明に迫ったんじゃないでしょうか!!!

ここからの山本論が面白い。「当時は浮世絵が最先端の肖像画だった。その次は写真。そして写真が動く活動写真の時代へ。今は?スマートホンやタブレットですね。そんな現在地点から振り返ると、浮世絵ってその全てがデフォルメに感じてしまいます。明治の頃、写真が一般化された時に浮世絵に慣れ親しんでいた方々は写真には全く魅力を感じなかった、なんて話も残っています。技術の進化は<肖像>というものの感性も変えていきました。では、私たちはどうなるでしょうか?VRやホログラムが当たり前の時代になった時、今のスマートホンに表示される肖像をどんな感性で受け止めるでしょうか?写楽は、そんな大きな流れの中に異質としてポンと現われサッと去っていった。確かに興味深い人物ですね」

この納得。そして知的好奇心が満ちる快感ときたら!!!今回の企画展『写楽と珠玉の浮世絵』も冴えわたる大阪浮世絵美術館。商業か?芸術か?さらには技術の進化と肖像の在り方、そんな諸々のテーマをボールいっぱいに混ぜ合わせ、「知的好奇心エッセンス」をおおさじ一杯垂らしたかのような贅沢な時間が待っています。1人でじーーーっくり鑑賞するもよし、誰かと観賞した後に大議論を交わすも楽し♡是非ともご来館ください!

ちなみに・・・

こちらが「三世坂東彦三郎の鷺坂左内(さんせいばんどうひこさぶろうのさぎざかさない)」です。先の「阿部宗任(あべのむねとう)」シリーズ「中村芝翫(なかむらしかん)」と比べても・・・ファンタジーな覇気とかイケメンぶりとは乖離!!!皆さんがいま見ている画像でも「!?」だと思いますが、実際に作品を肉眼で観ると…その不思議さから目が離せなくなること請け合いです★

こちらは「八世森田勘弥の駕篭舁鴬の治郎作(はちだいめもりたかんやのかごかきうぐいすのじろさく)」。生々しく「人」です、「人間」なのです。その人間が「黒雲母摺り」という背景技法によって「フワッ」と浮かび上がるように目前に迫ってくる写楽の技法。是非とも実際にその目で「体感」してみてください。その体感を可能とするのも大阪浮世絵美術館だからこそ♪♪

◇写楽と珠玉の浮世絵

展示期間:2023年2月19日(日)

 

◇入館料

・大人 1000円

・学生 600円 ※学生証提示

・小学生 300円 ※7~12歳

 

◇真近でじっくり

当館の展示室内には柵を設けず、無料貸し出しのルーペを使って繊細な浮世絵版画の技術や細かく摺られた模様などを間近でじっくりとご鑑賞いただけます。

(数に限りがございます。全て貸出中の場合はご容赦ください)

・現在、新型コロナウイルス感染症対策を行っております。
ご来館前に必ず公式サイトをご確認ください。
・入場券1枚にて1名様に限り有効です。再入場はできません。
・入場券は切り離し無効です。
・入場券の払戻、交換、再発行はできません。
・館内の混雑の際には、入場をお待ちいただくことがあります。
・館内での飲食はご遠慮ください。
・館内の温湿度、照度は作品保護に適した環境に調整されていますので、ご了承ください。
・館内での写真・ビデオ撮影、模写ならびに鉛筆以外の筆記用具 の使用はお断りいたします。
・館内での携帯電話、携帯端末の使用はご遠慮ください。
・館内では係員の指示に従ってください。ご協力いただけない場合は退場していただくことがございます。

 

※エレベータ設備のないビルですので、予めご了承ください。

※ショップのみのご利用は、入館料不要です。お気軽にご来館ください。

店名:大阪浮世絵美術館
住所:大阪市中央区心斎橋筋2-2-23 不二家心斎橋ビル3F
TEL:06-4256-1311
URL:https://osaka-ukiyoe-museum.com

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