宇治香園
自分語りでスミマセン
うちはいつもいつも家族仲がよかったわけじゃないし、よくある反抗期とか、母親の不機嫌とか、些細な小競り合いだってチョコチョコあったから、「いつもあたたかで素敵な家族♡」みたいなワケでもない。でも振り返ると、「いい」とか「悪い」とかじゃなくて、私には親や兄弟がいて一緒に「居た」時間が確実にあって、そのこと自体を思い出す。そんな事をツラツラと想起した今回の取材、それが「宇治香園」でした。
「宇治香園」は1865年創業。単純計算して、今年2022年から157年前のこと。スケールが大きすぎて捉えどころがないのですが…私のおばあちゃんのお母さんの、そのまたおばあちゃんの、そのまたお母さんの…そんな頃。ここ心斎橋に店を構えたのが昭和21年。私が生まれるよりも前のこと。
もちろん、老舗。ゴッツイ歴史を持つお茶屋さん。それだけで捉えると、高級で特権的でクローズドなお茶の世界に及び腰になりそうです。でも、宇治香園の真意はそこじゃない。
いつか、前店長の浅井さんが私に話してくれました。
「茶葉の価格、それ自体に意味があるのではなく、そのお茶を通してお客様が<誰>と<どんな風に>つながるのか?そこにお茶の意味がある」と。例えば、お茶を贈る方とのつながり、例えば、一緒に飲む方との時間。
宇治香園にこんな社是があります。
「茶のこころを世につたえ
よろこびの和をひろげます」。
さらには、こんな言葉も。
お茶は、もういちど家族が集まるきっかけ。
子供がよくしゃべります。
心があったかくなります。
やさしくなります。
この一杯の表面から奥底へと透過するグラデーション。色を添えながらもどこまでも透明で、宙に淡い輪郭を描き、色の在る場所と無い場所の接面を浮かび上がらせる一杯のお茶。
口に含めば、味や香りといった色の無いものが感覚を触発して、サッと現れ、フワッと広がり、スッと去っていく。
色はないけれど、確実に在り、私の感覚を触発する。そんな体験が「お茶を飲む」ということなのかもしれません。言語化も色別化も必要がなく、ただただそこに在る、もしくは、在ったもの。記憶の中で還る、あの「いつもあたたかで素敵な家族でもなかったけれど、確実に在った私と家族との時間」のように。何にも代替えできない、ただただそこに在った唯一無二のもの。
そういえば小さい頃、祖母の淹れたお茶を飲みながら家族みんなでバカ笑いしたり、カンカンに怒った母親が淹れるお茶はカンカンに熱かったり、祖母は毎朝ひとりでお茶と梅干で「ひとりお目覚め」していたし、父親はついぞ自分でお茶も淹れなかったなぁなんて思い出したら、遠くなってしまった、もうリアルでは逢えない人たちともつながるのです。「お茶」が残してくれた、誰でもない私だけの記憶です。
ここに1つの茶筒があります。照明を受ける場所と影を浮かばせる場所。「光」をそのまま映し出す1本の円柱。これが、2020年に宇治香園がリリースした新しいパッケージデザインなのです。こうやって眺めると「白」という色でもない…言語化も色別化も不要とする「光」の1本。そう、宇治香園が大切にしてきた「お茶」の存在意義を体現化した、究極の表現法。
過度な装飾はもちろんのこと、「読める・見える」の装飾を極限まで削ぎ落し、抑制の中に何かを浮かび上がらせる、そこにただただ在るスクエア。皆様、この中身が「お茶」だと感じた時、この「光」に何が映し出されましたか? 心の内にある何が反射されましたか? 私にとって、それは「家族」でした。家族と過ごしたお茶のひと時でした。
新パッケージデザインの開発には約6年がかかっているそうです。遡ること2014年、翌年を150周年を迎える宇治香園において、再度「お茶とは何かという問いに正面から対峙した」と話すのは小嶋代表。その答えを具現化(パッケージデザイン表現)するために、ひとりのデザイナーと共にこの世界観の構築に向けて進みだしたそう。
素材にフォルムに仕様などなど。細部にまでその哲学を行き渡らせ、2020年の4月にリリース。往年のお客様も、心斎橋筋商店街の道行く人も、なんと宇治香園社内でも、驚きをもって迎えられたこの新デザインには様々な感想が寄せられたそう。
この「様々な感想」という部分が、まさに当パッケージの本質を現しているのかもしれません。眺めて手に取る方の内を反映するかのようなデザインは、多くの方の、その人ならではの「何か」を触発するのですから。
果たして、当デザインの評は国内には留まりませんでした。2021年、世界三大デザインコンペンションのひとつ「iFデザインアワード2021」において、52ケ国・約10000エントリーの中から、受賞の快挙。約150年の歴史、その間に継がれ更新され続けた宇治香園のフィロソフィーが<デザイン>という表現で世界に評された機会だったのです。
ここで、終わりじゃないんです。いま、このパッケージに反射する私の内面が、来年はどんな景色でもって表層化するのか、もし今後自分の家族を持った時にどう変化するのか。さらに、そのまた先も。写し鏡のような宇治香園のパッケージデザインは、正直どこか怖くもあります。
そんな時は、お茶を一杯。例えば、宇治香園で約100年続く銘柄「煎茶 清風」の清澄でいて豊かな風味。サッと現れ、フワッと広がり、スッと去っていく体感に、 「いい」も「悪い」もなく、ただそこに在って感じることだけをシンプルに引き受ける。隣で一緒に味わう人や、過日に一緒に味わった人をフワリと想う。そんな何にも替え難い時間こそが「お茶」なんだと気づかされます。
煎茶 天恵〈紙筒箱〉60g 2,160円
■写真B
ミニ宇治香園 玉龍・天恵・月・松寿 3,672円
※4種のティーバッグの詰合せ
■写真C
ミニ宇治香園 煎茶 天恵ティーバッグ 3g×6p 864円
■写真D
煎茶 天恵 70g 1,620円/煎茶 天恵ティーバッグ〈小〉3g×3p 389円