2015.02.01

大阪「和魂洋才」の系譜は心斎橋にあり

Store Info

数々の名店で研鑽、伝説的シェフにも師事した辻川氏

いまでこそ、和と仏のフュージョン料理店は全国に数多くあります。かつて、1980年代にその潮流を生み出した伝説的なシェフがいたそうです。陶芸家・画家・書家としても名高く、料理の世界で「和魂洋才」の礎を築いた傑物。その人物に導かれ、フュージョン料理の世界へと手を延ばし、自らの手中に新たな創意をみなぎらせる名シェフが、心斎橋に店を構えています。

オーナーシェフ・辻川守氏。数々の名店で研鑽を積み、東京ではフュージョン料理の先駆者から、技術はもちろん、見識や造詣や美学にも薫陶を受けた、ここ「Restaurant つじ川」のオーナー。2014年・4月のオープン後は、口の肥えた大阪人から東京や四国などの遠方からもゲストを引き寄せています。今回は、無理無理のゴリゴリに取材依頼を重ね、お忙しい最中に取材敢行です!

まずは「味噌漬けフォアグラテリーヌ」。仏産鴨のフォアグラは、下ごしらえの段階で血管や筋を細やかに削ぎ取ります。これが、雑味やえぐ味を残さないための“見えない仕事”。西京味噌に漬け込み、60度~70度の湯煎で時間をかけて低温加熱。旨味をゆっくりと高めて仕込みは完了。

フォアグラテリーヌと対峙させるのは「あんぽ柿」。福島の名産で、柿を硫黄で薫蒸にしたドライフルーツ。半分レアで水分を多く保有する干し柿が、クリーム色のフォアグラとコントラストを創ります。さて…どんな味に仕上がるのでしょうか?

もともとフォアグラとフルーツは仏料理でも伝統の組み合わせ。主張の強いフォアグラを適度に水分を飛ばしたドライフルーツが受け止める味覚の妙は、なんとも甘美的な風合い。その法則・原理をそのままに、福島の「あんぽ柿」に置き換える。尖った甘味ではなく、どこか懐かしくてくすみのある和のまるーい甘味。西京味噌に漬け込んだフォアグラとどうマッチするのか楽しみです。

美濃焼きの現代作家の1枚に盛り込まれた「味噌漬けフォアグラテリーヌ」完成です。あんぽ柿とフォアグラを合わせてひとくち。濃厚なフォアグラを西京味噌の上品な香りと芳醇さが引き立てると、あんぽ柿の甘い果汁がフォアグラと味噌の双方を口中に広げます。そう、この味覚の演算こそが仏料理の醍醐味。にも関わらず、味わう舌も鼻も歯ざわりも「日本」。和の色が味に変換されたかのような妙味。

実はこの料理、10年前から辻川氏が手掛けてきたスペシャリテといえる一品なのだとか。食材を探しに産地へ足を運ぶことも多かったという辻川シェフ。ある時立ち寄った福島の野菜産地で民家の軒先にぶら下がっていた「あんぽ柿」を見つけ、ひとつ食べさせてもらった時に、この料理を発案したのだとか。「日本にはまだまだ面白い伝統食材がいっぱいありますよ」と話してくれました。

次に手掛けるのが「真鯛のソテー」。鮮魚の加熱には過分に注視を強める辻川シェフ。皮面を熱し始めたら一気に弱火へと落とします。そして、そのまま。じっとそのまま。加熱によって高まるグルタミンとイノシンの2つの旨味をゆっくりと高めていきます。ただし、頂点は一瞬限り。その瞬間にゲストの口へと運ばれるよう、秒単位の逆算で仕事を進めるのです。

 

その間に火を入れるのが甲殻のソース「ビスク・ド・オマール」。オマール海老の頭や殻を20分かけて炒め、臭みを除き香りを高めた後に、コニャックや白ワインや香味野菜や貝の汁で1時間かけて煮出します。抽出される旨味のエキス、そこに合わせるのは…なんと西京味噌。麹の香りが控えめで、熟成の旨味を持つ西京味噌は、辻川シェフのお気に入りのよう。

西京味噌だけではありません。中華のXO醤やもろみ味噌、鰹やうるめの出汁。料理の枠を超える硬軟自在な創意が、古典的な仏料理に幾重にも新味を魅せてくれるのです。回帰と再構築と進化、まだ経験したことのない味覚へと挑む瞬発力が辻川シェフ最大の強みではないでしょうか。

さて、皮面だけを加熱し続けた真鯛は頃合いを見極め、3秒だけ身も加熱。余熱の浸透も考慮し、手際よく盛り付けへと移ります。

ここでご注目ください。シェフのまな板は檜(ひのき)、そして盛り付け用の箸は真菜箸。これらは日本料理の道具なのです。

店内はさながら割烹のようなカウンターメインの空間。利休箸と目打ちのスプーンがセットされる漆黒の盆には、真っ白なナプキン。お道具にも空間にも和魂洋才が漂います。営業時にはゲストとの掛け合いも弾むカウンターフレンチ。産地や調理の話など、シェフの話にも興味深々です。

では「真鯛のソテー」をいただきます。画像で見えるでしょうか?皮面から身へと焼き加減が絶妙なグラデーション。サックリとした皮と柔らか極まる身のテクスチャー比は秀逸。そして、「ビスク・ド・オマール」の風合いを香りながら、端麗な真鯛と西京味噌が相乗する。菜の花や芽キャベツやインゲンなど、春野菜のほのかな苦味もアクセントに。これも、馴染みある和の味。そしてその期待を超える、甲殻の深い香り。

ソースが残ってしまったら?一説には残ったソースをパンで食すのはマナー違反なんて言われますが…。「うちではどうぞ、最後までパンで召し上がってください。自分が美味しいと思う食べ方が一番なんですよ」と話す辻川シェフ。店内自家製のフォカッチャは、ソースにつけても美味しいようにオリーブオイルを控えめにして焼き上げているそうです。

「フレンチの伝統的な味わい方、それ自体が置いていかれて、型やマナーだけが先行する傾向もあります。もっとフレンチの魅力を身近に感じて欲しい、そのためのフュージョンかもしれません」と笑う辻川シェフ。マダムの辻川さんの細やかな計らいも寛ぎある食べ心地には欠かせません。大切な人と伺いたくなる一軒です。

  • ディナーコース 6,500円
    ディナーコース 8,000円
    ディナーコース 1,0000円
  • ※全て税抜き価格

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