2021.08.18

中尾書店

心斎橋筋商店街には老舗店舗が点在します。呉服や洋裁に、漆器や宝石、絵画などなど。かつてこの通りを観劇に向けてそぞろ歩いた旦那はんやいとさん&こいさん。そんな中「書店」に足を止めた文人墨客もおられたことでしょう。今回は、そんな取材です。

さかのぼること1967年(昭和42年)。創業者・中尾良男氏が開業した「中尾書店」。江戸時代の和本を取り扱う古典籍売買を主に「先人が残されました良書を後世に伝えて行くことが、私共の仕事です。」と話す、ご店主。何度も前を通りながら、未だ中へと足を踏み込まなかった皆様に、まずは蔵書の特徴をご案内いたします。

山と積まれるこちらは実は江戸時代の書籍。当時、寺小屋でも用いられていた儒教の経書「四書五経」が、今目前に…このように折り重なるとは…史学専門でなくとも驚きの光景です。そうです、かつて「誰か」がこれを開き、読み解き、学んで、教授した、その軌跡そのもの。こんなにもキレイな形で折り重なるなんて…!「当時の図書は和紙で作られており、現在の紙よりも断然に劣化しにくいんです」とお教えくださった同店の田村様。

そして、中尾書店様のもうひとつの特徴が東洋の医学書。江戸時代中期に編纂された「和漢三才図会」や・・・

昭和期の漢方復権に尽力した医学博士・矢数道明「漢方百話」も。

そして、覆刻版「解體新書」(解体新書)まで。これら東洋の医学書は現代でも医学関係の方々が利用になる事も多く、歴史をさかのぼりながら医学の手がかりを探す道標にもなっているのだとか。古書でありながら、今にも通じる学術書。壁一面にならぶ様子を眺めながら、過去と現在が地続きとなる不思議さが圧巻!

さらには「易学」。東洋医学のお隣に易学なんて…興味津々!現代では占い的認識が一般化しておりますが、もとは自然哲学の学問であった____とは、私の哲学科の恩師の言葉。思考の歴史をたどるヒントになる!?

こちらもお好きな方にはたまらないはず。浄瑠璃の演者さんたちが使う台本「床本」なんです。約50年前のものも保管しているそうで、ここでは明かせない…その方面の著名な巧者の方もお買い求めに来店されるのだとか…!?

ふぅ~~!!非常に専門性の高い古書の世界を垣間見てきましたが、ここからは私ども心斎橋筋商店街にも関連深い大阪の郷土本や資料のご案内です。そこで、田村さんにこんなリクエストをしてみました。「むかしの心斎橋ってどんな雰囲気だったんですか???」

田村さんがおすすめしてくれたのは「明治25年 大阪名所案内」。おお!このサイズ感からは、当時の方々がカバンやポケットに携えて歩いたガイドブックのような趣もあり!

そう!まさにガイドブック!当時かかっていた「橋」が写実に描かれ、『南之方部 長堀川十六橋ノ中川上ヨリ・・・・』と案内が記されています。この名所を広く伝達する事はもちろん、この情景を後にも「伝えよう、伝えよう」とする熱量が伝わってきそうなほど。

この情景をこの先に「伝えよう、伝えよう」とするのは、図録だけではありません、中尾書店さんでは店頭にこのようなコーナーを展開。その名も「おおさか特集」です。「大阪の歴史 大阪市史編」「写真集 なにわ今昔」「中之島公会堂 赤レンガの公会堂」「写真集 堺」「上方俳星目録」「博覧会の世紀」「浪華繁盛」などなどなどなど…。写真集、図録、記録、資料など様々な切り口から過去から今へと大阪を語るコーナー。

田村さんは話します。「近年ではこういった図録も集まりが少なくなってきています」。そうです、中尾書店さんは買い取って販売する…古書店。仕入れの様子を眺めながら、時の流れも感じるそう。だからゆえに、この先に「伝えよう、伝えよう」と静かな高揚が店内に溢れています。

容易に価格には変換できない歳月の財産や知の大成がひっそりと、所狭しと、おびただしく並ぶ中尾書店さん。令和3年の今日のことも50年後に運んでくれる、そんな古書店です。

※価格は店頭にてご確認ください。

店名:中尾書店
住所:大阪市中央区心斎橋筋1-2-14
TEL:06-6271-0843
URL:http://www.nakaoshoten.jp/

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